天満宮前 家族信託相談所

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事例12

    

     遺言の書き換え合戦を防ぎ遺産分割の生前合意を有効にしたい

             

X(75)は、奥さんに先立たれ、X所有の自宅不動産に一人で元気に暮らしています。
近所に長男Aの家族が住んでいて定期的に会いに来てくれているので、今のところ生活に不安はありません。もしXが将来認知症になった際には、できる限り在宅介護を希望しますが、あまり長男家族に負担もかけられないので、いずれ自宅を売却し、有料老人ホームに入居をしたいと考えています。
Xと兄弟A・B・Cは、皆仲が良いですが、二男B家族も三男C家族も遠いところに居を構えているので、年に1回程度しかXに会いに行けません。そこで、Xのいざという時の緊急対応や介護、財産管理等は、長男A家族に任せることに、Xさん、二男B、三男Cの全員が納得しています。
将来、自宅売却と老人ホームへの入居手続きを進める際に、Xの判断能力の低下が著しければ、自宅売却には後見制度を利用して、成年後見人から売却しなければならなくなりますが、家族全員が可能な限りのスムーズな売却と成年後見制度の利用による負担を負わないことを希望しています。

 

また、長男A家族の介護負担を考慮して、将来のXの死亡時における財産の分配を長男Aに多くすることについて、Xも二男B、三男Cも納得しているので、その合意内容も有効な形で書面に残しておきたいと考えていますX(80)は、独身で一人暮らしをしています。
所有する資産は、自宅である都内の戸建(時価1億円弱)ですが、この家を継いで住んでくれるような親族はいません。
自分が死んだら、自宅不動産を売って、その売却代金を自分の兄弟や甥姪(ABC)に遺産として残してあげたいと思っています(Xと疎遠な弟Dには、財産を残す必要は無いと考えています)。
自分が死んだ後のことは、親戚の中でも一番信頼でき、自分を気にかけてくれている甥Aに頼みたいと思っています。

解決策

Xは、長男Aとの間で、X所有の自宅不動産及び一部の現金を信託財産をとする信託契約を締結します。 その内容は、受託者を長男A、受益者をX自身とし、信託期間はXが死亡するまでとします。
将来Xが自分で売却することが困難になれば、長男Aは受託者として、自宅不動産の売却ができる(売主が受託者Aになる)ように権限を明記しておきます。

 

Xが死亡した時点で信託は終了し、信託の残余財産の帰属先を長男Aに2分の1、二男Bと三男Cに各4分の1と指定しておきます。Xは、遺言公正証書の中で、プラスの遺産全て(自宅不動産と預金など)を信託財産とし、受託者を甥A、受益者を甥A・姪B・妹C(受益権割合は、A:B:C=2:1:1)、信託監督人を司法書士Zとする遺言信託を設定します。
また、遺言執行者に司法書士Zを指名しておきます。
司法書士Zは、Xの死後、遺言執行者として遺産を取りまとめた上で、残ったプラスの遺産を受託者Aに引き渡します。
受託者Aは、自宅不動産を売却した上で、その売却益と信託金融資産を受益権割合に基づいてABCに分配します。

ポイント

いざ不動産を売却したい時に、所有者Xに判断能力が無ければ、数ヶ月かけて成年後見人を就任させ、家庭裁判所の許可を得てから自宅を売却することが必要になり、売却スケジュールが大幅にずれる可能性があります。また、不動産売却が契機だとしても、一旦後見制度を利用してしまうと、本人が完治しない限り制度利用をやめることができなくなりますので、毎年家庭裁判所に報告をするなど、親族後見人として長期にわたる負担は避けられなくなります。
信託契約により、自宅不動産の登記簿が「受託者 A」という登記名義になり、長男Aが売主として売却手続きを行うことができますので、その際にXの判断能力の有無は一切問題にならなくなります。なお、「委託者=受益者」なので、贈与税・不動産取得税の課税は発生しません。
X死亡により信託が終了した時点で、残余財産の帰属先が信託契約の中で指定されていますので、実質的にXが遺言を書いたのと同じ効果があります。ただし、遺言はいつでもXが勝手に書き換えることができますが、信託契約は、内容の変更に制限を加えることができます(具体的には、信託契約の変更には、受託者と受益者が合意しなければ変更できないようにしたり、残余財産の帰属先の条項部分は変更不能にしたりできます)ので、兄弟ABCが納得した割合で確実に遺産の受取が実現できるといえます。

これにより、民法上無効な「生前分割」を実質的に有効な形にすることができると共に、将来兄弟間に確執が生じ、Xの遺言の書換え合戦が起きるような事態も排除することができます(信託契約締結後の遺言では、信託財産に関する資産承継の指定は及びません)。